A=415hz

ここ数年、古楽を専門にされている方との共演を重ねているのですが、ギタリストとしてよく理解できないのが標準ピッチのことです。
現在のチューニングにはA=440-442hzが国際標準ピッチとして認識されています。これは時代とともにコンサート会場で楽器の音量を上げ、とくにオーケストラでの音圧を稼ぐために使われだしたものですので、
逆に時代をさかのぼるほどピッチは低くなっていきます。19世紀にはヴェルディアンA(ヴェルディが多用していたらしい)A=432hzでしたし、それがバロック時代になるとちょうど半音低い415hzまで下がります。

つまり現在の音より半音低く聴こえていたわけで、これは理解できます。
しかしこれは単純に半音低く移調すればよいだけのことですよね。

ギターでは機能性の問題でかなり調性が制限されます。低音を使いやすくするためにE-A-Dなどシャープ系を得意とし、フラット系は響きを損なうのでほとんど使われない傾向があります。
もし作曲家が大好きな変ホ長調(♭3つ)で書いてきたら、ギタリストは必ず「なんとかニ長調にしてもらえませんか」と頼み込むはずです。なぜならそのほうが響きも良く、弾きやすい、つまりギターはそういう楽器だと知っているからです。

移調しなければ弾けない、アレンジしなければ何もできない、そんな楽器であるギターにとって「原調主義」などそもそも無縁の世界なんですね。正直何に拘ってるのか全く理解できない人も多いのでは。
バロック音楽の時代、ギターはスペインの民族楽器でしかありません。当時は撥弦楽器としてはリュート、鍵盤楽器でチェンバロが全盛で、いずれにせよギターで弾く場合は「編曲」するわけで、その際に調をギターに弾きやすく移調することは当たり前なんです。

奏法的にも、リュート調弦は今のギターより短三度高くチューニングされますが、バロックピッチと言うことで長2度にすればいいだけ。もしカポタストを使用するなら1フレットずらせばいい。

もしリュートで演奏するのなら、カポタストとかありませんから最初のチューニングの基準音が大切なんだということはわかります。でもギターだとどうでもいいんですよ。
ところが、ここで弦のテンションを緩めることで「バロック時代を彷彿させる落ち着いた音」になる。とおっしゃる向きもある。
でもね、20世紀に入って進化した今のナイロン弦、ギターサイズで半音下げるとね、楽器が鳴らないんですよ。
なぜなら440近辺で最高のパフォーマンスが得られるように計算してますからね。

それはお前が使ってる楽器が安物だからだろ!とか、
そもそもギターでバロック音楽を語るな!とか
だからギターは!うんぬん。

まぁおっしゃる通りなんですが(笑)。

ピッチにしろ、原調主義、オリジナル楽器主義など、古楽の人たちの「コダワリ」。
昔の人はこういう音を聴いていたんだなぁ、というのはロマンですが、それは
「今見ている星の光は1億年以上前の光なんだよ」と言われている世界とおなじように感じてしまうのです。
別にそれが悪いとか、そういうのではなく。その先「その光を300年前の天体望遠鏡でみるのが通」とか言われると。